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【写実絵画】写真にも AI にも負けない、写実絵画の魅力とは。

写実絵画の魅力とは

 

「牛乳を注ぐ女」 ヨハネス・フェルメール, Het melkmeisje, Johannes Vermeer, 1660.

 

「泣く女」 パブロ・ピカソ, 1937年

 

写実絵画・リアリズムとは何か

一般的に「すごく上手な絵」、とは写実的な絵をさすのだろう。
輪郭・バランス・質感を表現していく。時に、写真と見まがうようなテクニックで驚くことがある。
写実絵画は事実に忠実で、抽象絵画は感情に忠実。
ただ、写実絵画。上手になればなるほど、写真に近づいていき、写真に間違われてしまう。それならば...。写真でいいんじゃないか?
そんな疑問が浮かんできてしまった。

 

そして、Midjourney (ミッドジャーニー) という AI での描画ツールが出てきた。
人が描くことの意味とは何か。

 

しかし、人が描く写実絵画にも、きっと意味があるはず。それを考えてみた。
結果、写真と写実絵画は似て非なるもの、どころではない。
やはり絵画は絵画。写真は写真。全く異なるものであった。

 

写実絵画とは

写実絵画会の巨匠、野田弘志 氏。

~写実絵画とは「物がそこに在るということを見える通りに、感じる通りに、触れる通りに、聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試み」~

どうやら、描き手が対象にどう向き合うか、そこに重きが置かれている様子である。
ただ、これはあまりにも崇高なテーマであり、一般的ではない。
問題は、絵に向き合った素人の私達にとって、写実絵画と写真がどう違うのか、どう捉えるかなのだ。

 

複眼か単眼か

上述の野田弘志 氏も含め、様々な部分で見かけるが、人間の眼は複眼 (2つ)、カメラの眼 (レンズ) は単眼 (1つ)、ということは挙げられそうだ。
複眼による微妙なずれがもたらす脳内世界と、単眼での世界は、僅かに異なる。
そのわずかなずれで生じた脳内世界を描くのが、写実絵画。
写実絵画は、写真に忠実なのではなく、脳内世界に忠実なのだ。

 

脳内世界をいかに表すか

これらは、写実絵画の画家達の発現にも表れているように思う。

私にとって美しいものはまず目の前にあって、それがなぜ美しいと感じるのか、その秘密を探りながら自分の認識したものを画面に記録していくような作業が私にとっての写実だと思うのです。
小尾修一

 

実を写す写実絵画は対象に迫れば迫るほど、個性は無に近づきます。けれど、無にはならず、また、無に近いほど良いというわけではないと思います。
藤原秀一

 

写実画は細かく本物そっくりに描いていることについ目が行きますが、大事なのは鑑賞者との間に生まれる共感だと考えます。
原雅幸

これらいずれからも、リアルに描くことだけではなく、その中で生まれる感情を大事にしていることが伝わってくる。

 

画家 青木敏郎 氏は、分析する。

人間の美意識を「五つの美意識」とし、
「描写美」「素材美」「メティエ美 (仕事美)」「色彩美」「構成美」とします。
一流の画匠の作品はさほど細密に描いてあるものは少なく、もっと人間の目に近い表現をしています。レンブラント、フェルメール、ベラスケスの作品を見ると、細かいディテールにこだわるというよりも豊かなグラデーションを展開しています。細かく描写するところと大きく表現するところが混在していて、豊潤さを感じさせます。

必ずしも、細かく細かく限界まで描き切るのではなく、写実絵画でも細かい部分を省くことがありえる。

 

写真との違い、写実絵画が織りなす「運命の線」

優れた彫刻家は、石材・木材の中に、彫刻され浮かび上がることを待つ形状を見抜くことができる。
書家の一筆は、研鑽の重みがこもり、それのみで芸術となる。

 

同様に、卓越した画家の一筆は、それ単体が芸術となる。鍛錬された一筆一筆は、無意識のうちにも全てそれぞれが単体でも美しい線となり、その集合体である絵画は、完璧な線が織りなす塊である。
絵具にも質量があり、重みがある。
完璧な線の集合体である、絵画。鑑賞者が絵画を見た時に受ける衝撃・パワーは、無意識のうちに眼・網膜から脳内に投影される、これらの線によるものなのかもしれない。

 

人は人の営みに感動するという当たり前の事実

誰もが車に乗り、バイクにのり、時速 40 km でも 80 km でも移動することができる。
それでも、ウサインボルトの走りには熱狂する。
イチローや大谷翔平の活躍に眼を奪われる。
絵画も、そのような部分がありそうだ。

 

写真が出てきたことによって、役割分担が明確になったともいえる。

ただ単なる位置関係や色を表すものは、写真。
人間の感情・感覚を表すものが、絵画。

事実の記録の部分は写真に仕事を譲り、絵画は人間らしさの部分に専念することができるのだろう。

AI でできる仕事は AIに。人間でなければならない仕事は人間が行う。

 

 

冒頭の 野田弘志 氏 の言葉に戻りたい。

~写実絵画とは「物がそこに在るということを見える通りに、感じる通りに、触れる通りに、聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試み」~

 

 

 

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