2022/5/2 放送 NHK クローズアップ現代
「"アスリート 心のSOS" トップ選手に何が?」
今回の放送は、全く他人事ではありませんでした。
- トップアスリートのメンタルヘルス
- トップアスリートのメンタル不調は「まれな偶然」なのか
- 3-4割のトップアスリートがメンタルヘルスの問題を抱えている
- ミドルエイジクライシスに重なる部分は多い
- 世の中は傾聴してくれない
- 気持ちを吐き出し整理する環境が必要だ
- ミドルエイジクライシスを経験する世代にも、弱音を吐く権利がある!!
トップアスリートのメンタルヘルス
このテーマを聞いて、ニュースでこれまで報道されてきたアスリートの皆さんの顔が思い浮かびました。実際に取り上げられた、テニス 大坂なおみさん、競泳 萩野公介さん、フィギュアスケート 鈴木明子さん、バレーボール 大山加奈さん、海外選手では競泳 マイケル・フェルプスさん...。報道でも、メンタル面が取り上げられることが多かった方々です。
また、最近では、競泳 大橋悠依選手の、オリンピック東京大会での金メダル受賞後の苦しみが取り上げられていました。2022年3月3日「競泳・国際大会日本代表選手選考会」女子400メートル個人メドレー決勝で3位となった後に、語られた金メダリストの重圧。
東京五輪金・大橋悠依“金メダリストの重圧”に涙「これからも戦い続けるもの」女子400個メ3位
トップアスリートのメンタル不調は「まれな偶然」なのか
これらのトップアスリートの苦しみ。「強いアスリートのごくまれな一面」「苦しみを乗り越えて活躍している」といった認識でした。しかし、この番組で示されたのは、そんな認識を塗り替える事実でした。
3-4割のトップアスリートがメンタルヘルスの問題を抱えている
衝撃的な数値が示されました。「強い」と言われているトップアスリートの3-4割がメンタルヘルスの問題をかかえているというのです。
番組中では画面に映ったのみでしたが、原著論文は、下記の2つでした。
「トップアスリートの33.6% が不安や抑うつ症状を抱えている」
「日本トップリーグのラグビー選手 251名のうち、32.3% が軽度の不安や抑うつを感じ、10.0% が中度~高度の症状を感じている。また、7.6% が 2週間以内に死にたいと思ったことがある」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7908153/pdf/ijerph-18-01205.pdf
この2つ目の論文、日本国内トップリーグのラグビー選手を対象としている中での結果、というのが衝撃的です。「日本トップリーグのラグビー選手 251名のうち、32.3% が軽度の不安や抑うつを感じ、10.0% が中度~高度の症状を感じている。また、7.6% が 2週間以内に死にたいと思ったことがある。」これはもちろん、アスリートならではの選手間競争やケガへの不安などもあると思います。この原著論文の中では、「ラストシーズンでのスターティングメンバ―よりも、リザーブやプレイ無しのメンバーではより症状が出やすく、重い」との結果となっていました。想像に難くない、理解できる状況です。
ミドルエイジクライシスに重なる部分は多い
「トップアスリートの3-4割が多かれ少なかれの不安・抑うつを抱えている」。この事実は、非常に示唆的でした。この事実は、トップアスリートに限らず、アラフォー世代にも重なる部分が多いようです。
社会人となり、20歳代~30歳代にかけて直線的に能力をつけたアラフォー世代。この世代は能力を身につけた一方、成長が鈍化し伸びしろが少なくなる、あるいは現場から管理職へ業務内容が移行する、などの変化が表れてきます。この時期に経験するミドルエイジ・クライシス/ミッドライフクライシス。中年期に表れる不安や抑うつなどの心理的危機を表す言葉です。
ミドルエイジ・クライシス/ミッドライフクライシスの原因は、加齢・身体機能の低下、病気、家庭環境の変化、職場での変化などの複数の要因が重なり合って起こる、とされています。
ただ、今回のクローズアップ現代で紹介されていた「トップアスリートの33.6% が不安や抑うつ症状を抱えている」という、事実。これは、仕事を継続したアラフォー世代に重なるものがあると思います。
一心不乱に20-30歳代まで働き、それぞれの職務遂行能力を手にした世代は、ある意味それぞれの個人が、トップアスリートと言えます。ただ、そこから、成長する先が見えない状態、ただ頑張れば良いというわけではない状況。これまでの実績が当然とされて、褒められない・認められない状況。より多くを求められる状況。また、現場の仕事が減り、スターティングメンバ―からリザーブになったような状況。
分野はレベルは違いますが、トップアスリートと同等の状況と考えます。
世の中は傾聴してくれない
競泳 萩野公介さんの回想では「自分で乗り越えないといけないと思ってしまう」と考え、誰にも頼れない心理状態に陥っていたとのことです。我々の社会も、そのような状況です。書店やインターネットの世界も輝かしい成功例や強者の発言が並び、「皆が経験する変化」「自分で乗り越えるのが当然」といった風潮です。
強靭な心身を持つとされるトップアスリートですら、33.6%が不安や抑うつを抱えるのです。まして、一般人である我々が努力を続けた後に環境の変化に置かれた際に、不安や抑うつを経験することは、むしろ自然なことに思えます。
気持ちを吐き出し整理する環境が必要だ
トップアスリートの取り組みとして、現役ラグビー選手のカウンセリングを、引退した他分野のアスリートが行う、というものがありました。インタビューされていたのは、バレーボールの益子直美さん。以前からメンタルヘルスに取り組まれていましたが、今回はラグビー選手のカウンセリングに取り組まれていました。
価値観をおしつけない。
分かった気にならない。
「わかるわかる」と言わないようにする、など具体的な注意点が、印象でした。
これらの他分野の先輩との交流は、感情の整理、思考過程の整理に有用と思われます。
ミドルエイジクライシスを経験する世代にも、弱音を吐く権利がある!!
30歳代後半にもなると、悩みや感情を吐露する場面が一気に少なくなります。その場面で他分野でもコーチングしてくれる場があると、成長を続けられるのでしょう。
昔であれば長老、あるいは宗教などが、その役割を果たしていたのだと思われます。
現代、無条件に悩み・感情を吐露する環境の設定が重要です。
周囲にそのような環境が無ければ、自ら意識的に自分の感情を整理する場を作るように努めることが、中間世代に求められる自己マネージメントの一つのようです。
我々には、弱音を吐く権利がある。
そう認識しました。